めんでる愛

町田子が管理するUTAU音源キャラの設定語り中心

【再掲】ちょっとそこの誰かさん!【頻音クロク二次創作SS】

ちょっと、そこの誰かさん!
聞いてくださいよ。私、何もかもを思い出したのです。
あなたの名前なんでしたっけ?お医者さん。
誰か……誰か先生とでも呼んでおきましょう。
私は騙されて、貶められたんです。これをジゴクの所業と言わずして何と言わんか。
ひどい話です。
私は「怪人の噂」について調べてたんです。
雑誌「宇多宇奇譚」のネタ探し……
誰か先生、私は真っ当な記者でございます。
自己紹介をいたします。つい先程自分のことを思い出しました。
名前は黒井針一と申します。
歳は、この見た目通りの年齢です。あきらかでしょう?
娘がいます。小さな娘です。可愛いものです。
私の顔を見てください。しっかりとした目つき、口元、コレを常人以外に見えますか。
すべてを思い出したからには、スグにここを退院させていただきますからね……早くこのことを記事にしなければ
あの怪人を名乗る「頻音クロク」という胡散臭い男のことを
そうです。私のことを貶めた男のことです。
え? 事情をすべて話さなければ退院させることはできないご相談と……ハイ……ハイ、いかにもなるほど、
しかしですよ?私の事情というものは、他に漏らされると困るのです。生命に関わります……なるほど、医者というもは患者の事情はイッサイ他には漏らさない商売となっているので安心……特に病院というものは世間の秘密が積み上がってる保管庫……信用いたしましょう。信用いたしますとも。ハイ。
あの男のことを話しましょう。名前は仮にHとします。適当に選んだアルファベットです。なんの意味もありません。
私自身は、記者を勝手に名乗ってる殺人犯の大罪人と、世間ではなっていることと思います。
しかしそれはトンデモナイ嘘です。すべてHにはめられた罠なのです。
私は都市の片隅で雑誌の記者を本業としております。
しかし夜になると仮面を被り、人々の悩みを聞いて回っているのです。
悩みを一度聞いて「あなたの願いを叶えて差し上げましょう」と一言言います。するとどうでしょう。
人々はスッと気が抜けたようになり、次の瞬間穏やかな表情を見せるのです。
私はこれがたまらなく癖になりまして……ハイ、善行をしている気分になりました。
やめられなくなったのです。次第に仮面を被った「怪人」の姿でいる時間が多くなっていきました。
本業の記者の仕事にも差し支えるようになってまいりました。私には知っての通り小さな子どもがいます。路頭に迷うわけにはまいりません。
こんな私のところに仕事が舞い込んできました。
『なんでも願い事を叶えてくれる怪人』について調査、記事にする仕事です。
これ幸いに思いました。ネタには事欠きません。なにせ怪人の正体は私なのですから。
でもですよ、私が怪人とバレちゃ敵いません。私の代わりに怪人を演じてもらうためにそこいらでフラフラしているプー太郎を雇いました。
それがHという男です。
Hにあらかじめセリフを覚えさせ、私のインタビューに答えてもらい、録音するという寸法です。
内容はこういったものです
「あなたが、巷で噂になってる、怪人、頻音クロクですね」
「いかにもそうでしょう、私が怪人、頻音クロクで間違いありません」
「なぜこんなことをしているのですか」
「私には人々の願いを叶える常人には到底及ばない力があるのです。これを善行に使わなければと思った次第です。なんならあなたの願いを叶えて差し上げましょうか」
「はは……結構でございます。こうしてインタビューに答えていただけるだけで願いは叶ったも同然ですからね」
Hはよくやってくれました。私が吹き込まなかったことまで答えてくる始末であります。
「願い事をなんでも叶える力があなたにおありと……ハア……しかしまさかタダで願いがなんでも叶うなんてことはないでしょう?」
私もつい台本にないことを聞いてしまいます。
「もちろんタダではありません。願いが叶ったあかつきにには、『悪夢』をみてもらいます」
「悪夢ですか……それは怖いですねえ」
私は調子に乗って聞いてしまいました。
「それはどういった悪夢ですか」
「自分の願い事が叶った、という夢を延々と見続けるのです」
「ハッハッハッハッ」
私は思わず声を上げて笑いました。
「てっきり……てっきりですよ、最近私が偶に見る悪夢……私には娘なんていなくて、凶悪な殺人罪を犯し、投獄されて震えている夢でも見せられるのかと思いましたよ。てっきり……」
誰か先生、私は夢から目が覚めなくて困っているのですよ。早く現実の外の世界に戻らなければ。私は小さな頃からの夢を叶え雑誌の記者になりました。娘にも恵まれ幸せに暮らしていました。
人々の願い事を叶えるなんて善行を行う立派な人間になれたのですよ。
アレ? 誰か先生、一体どこに、これは人形? 壊れたロボットですかね。ここはどこでしょう。だれもいない部屋……私は雑誌の記者、黒井針一、間違いありません。